離婚後、三姉妹で新しい家を建てることを決めた私たち。
その資金計画の中で欠かせなかったのが、母が残してくれた実家の売却でした。
「家が完成する頃には売れているだろう。」
そんなふうに考えていましたが、現実はそう簡単ではありませんでした。
家は完成したのに実家は売れず、固定資産税や空き家の管理に悩む毎日。そして、ようやく現れた購入希望者からは思いもよらない条件を提示されることになります。
今回は、実家を売却するまでに私たちが経験したことを、ありのままお伝えします。

家づくりと実家の売却を同時に進めることに

三姉妹で新しい家を建てることが決まり、私たちは家づくりと並行して実家の売却も進めることにしました。
まず相談したのは、地元の不動産会社です。
実家の査定をお願いしたところ、築年数は約30年。建物自体の価値はほとんど残っておらず、評価の中心は土地でした。
それでも査定額が予想より高くなったのには理由がありました。
外壁や屋根は定期的に塗り替えを行い、大きな修繕もきちんと続けてきたこと。そして、太陽光発電を設置してからまだ3年ほどしか経っておらず、その設備も評価の対象になったのです。
最終的に、土地の価格に約500万円を上乗せした2,100万円で売り出すことになりました。
不動産会社からは、「早く現金化したいなら買取という方法もあります」と説明を受けました。
確かに買取なら短期間で売却できますが、その分、価格は仲介よりも大きく下がってしまいます。
私たちは少しでも高く売りたいと考えていたため、時間はかかっても仲介でお願いすることにしました。
幸い、売却を急がなければならない事情もありませんでした。
新しい家は住宅ローンを利用して建てましたが、住宅ローン控除を最大限活用したかったため、売却代金はすぐに返済へ充てるのではなく、13年間の控除期間が終わってから繰り上げ返済する予定にしていたからです。
そのため、「少し時間がかかっても、納得できる価格で売れればいい」という気持ちで売却をスタートさせました。
このときはまだ、「2,100万円なら、そのうち買い手が見つかるだろう」と、どこか楽観的に考えていたのです。
しかし、その予想は少しずつ崩れていくことになります。
不動産会社から「値下げを考えませんか」と言われた日

実家を売りに出してから数か月が経ちました。
「そのうち売れるだろう。」
最初はそう思っていた私たちでしたが、現実は思うようにはいきません。
問い合わせはあるものの、内覧まで話が進かなかったり、内覧をしても購入には至らなかったり……。
時間だけが静かに過ぎていきました。
そんなある日、不動産会社の担当者から一本の電話がありました。
「価格を少し見直してみませんか。」
その言葉を聞いた瞬間、胸がぎゅっと締め付けられるような気持ちになりました。
実家は、母が残してくれた大切な家です。
私たち三姉妹が育ち、母とたくさんの思い出を重ねてきた場所でもありました。
定期的に外壁や屋根の塗装を行い、太陽光発電も設置するなど、大切に手入れをしてきた家です。
だからこそ、「もっと価値があるはず」「この価格なら売れるはず」という思いがあり、簡単に値下げを受け入れることはできませんでした。
とはいえ、売れないまま時間だけが過ぎていく現実もあります。
毎年かかる固定資産税。
空き家の管理。
庭の手入れや建物の維持。
誰も住んでいない家でも、持ち続ける限り費用も手間もかかり続けます。
三姉妹で何度も話し合いました。
「もう少し待ってみる?」
「でも、このまま何か月も売れなかったら……。」
「価格を下げれば、本当に買い手が見つかるのかな。」
何度も悩みましたが、最後にたどり着いた答えは同じでした。
「売れないまま持ち続ける方が、私たちにとっては大きな負担になる。」
もちろん、できるだけ高く売りたい気持ちは変わりません。
それでも、新しい生活へ前に進むためには、どこかで決断しなければならない。
私たちはその現実を受け入れ、少しずつ価格を見直していくことにしました。
実家を売るということは、ただ家を手放すことではありません。
思い出や気持ちにも、一つの区切りをつける作業だったのだと、今振り返ると思います。
少しずつ価格を見直しながら待ち続けた

価格を見直すと決めた私たちは、不動産会社と相談しながら売却価格を少しずつ下げていきました。
一度に大きく下げるのではなく、毎月100万円ずつ価格を見直すことにしたのです。
「今月こそ売れるかもしれない。」
そんな期待を抱きながら、一か月待つ。
しかし、思うような反応はありません。
また100万円下げる。
そして、また待つ。
そんな日々の繰り返しでした。
価格を下げるたびに、「これでようやく買い手が見つかるかもしれない」という期待と、「もっと早く下げるべきだったのだろうか」という迷いが入り混じります。
一方で、新しい家づくりは着々と進んでいました。
住宅会社との打ち合わせを重ね、壁紙や照明、設備を決め、少しずつ家が形になっていきます。
完成に近づいていく新居を見るたびにワクワクする反面、実家はまだ売れないまま。
新しい暮らしへの期待と、実家が残っている不安。
その二つの気持ちを抱えながら過ごしていたことを、今でもよく覚えています。
やがて新居は完成し、三姉妹での新しい生活が始まりました。
それでも、実家はまだ売れていません。
空き家になった実家へ定期的に足を運び、庭の様子を見たり、家の中に風を通したりする日々は続いていました。
「本当に、この家を買ってくれる人は現れるのだろうか。」
そんな不安が少しずつ大きくなっていった頃、不動産会社から一本の連絡が入りました。
「購入を希望されている方がいらっしゃいます。」
ようやく訪れたその知らせに、私たちは胸をなで下ろしました。
しかし、その安心は長くは続かなかったのです。
やっと購入希望者が現れたと思ったら…

実家を売りに出してからしばらく経ったある日、不動産会社から待ちに待った連絡が入りました。
「購入を希望されている方がいらっしゃいます。」
その言葉を聞いた瞬間、ようやくここまで来たという安堵の気持ちでいっぱいになりました。
「これで実家も売れる。」
そう思ったのも束の間、不動産会社から続けてこんな話がありました。
「購入を希望されている方から、一つお願いがあります。」
それは、裏庭にあるお稲荷さんの祠を撤去してほしいというものでした。
実家の裏庭には、小さなお稲荷さんの祠がありました。
ただ、母はすでに亡くなっており、その祠をいつ、どんな理由で建てたのかを聞くことはできませんでした。
家族の誰も詳しい経緯は分からず、長い間、庭の一角に静かにたたずんでいました。
買主さんにとっては、これから新しく暮らし始める家です。
気持ちよく住んでいただくためにも、その希望には応えたいと思いました。
とはいえ、祠を撤去することには少しだけためらいもありました。
「このまま撤去してしまっていいのだろうか。」
そんな気持ちはありましたが、私たちは特に迷信を強く信じるタイプではありません。
だからといって、何もせずに壊してしまうのは違う気がしました。
三姉妹で相談し、「今まで家を見守ってくれてありがとうございました」という感謝の気持ちを込めて手を合わせることにしました。
静かに祈りを捧げ、清め塩をまいてから、自分たちの手で祠を撤去しました。
特別な儀式をお願いしたわけではありません。
私たちなりに感謝の気持ちを伝え、一つの区切りをつけたかったのです。
振り返ってみると、実家を売るということは、建物を手放すだけではありませんでした。
家に残された一つひとつの思い出や役目を終え、新しい持ち主へ受け渡していく——そんな時間でもあったように思います。
ついに契約の日

購入希望者との話もまとまり、ついに契約の日を迎えました。
長かった実家の売却も、ようやく終わりが見えてきた瞬間です。
契約書にサインをし、引き渡しの日程が決まり、すべての手続きが無事に完了しました。
そして引き渡しの日。
家の鍵をお渡ししたときは、「本当に実家を手放すんだ」という実感がゆっくりと込み上げてきました。
少し寂しい気持ちはありましたが、不思議と後悔はありませんでした。
実家を購入してくださったのは、年配のご夫婦でした。
後から不動産会社を通して聞いた話では、そのご夫婦は庭をとても気に入ってくださったそうです。
その庭は、ガーデニングが好きだった母が大切に手入れをしていた庭でした。
母が亡くなった後は、同じくガーデニングが趣味の妹が、その思いを引き継ぐように季節の花を植え、庭木の手入れを続けてきました。
その庭を見て、「この家に住みたい」と思ってくださったと聞いたとき、私たちは本当にうれしくなりました。
建物や土地だけではなく、母や妹が長い年月をかけて育ててきた庭まで気に入っていただけたことが、何よりもありがたかったのです。
実家は私たちの手を離れました。
でも、大切にしてきた庭がこれからも誰かに愛され、手入れをされながら残っていく。
そう思うと、寂しさよりも安心感の方が大きくなりました。
母が大切にしてきた家は、新しいご夫婦の暮らしの場所として、新しい時間を刻み始めます。
そして私たち三姉妹もまた、この日を境に、ようやく本当の意味で新しい人生へ歩き出せたような気がしました。
実家を売って分かったこと

実家の売却を終えて、改めて感じたことがあります。
それは、家は「売りに出せばすぐ売れる」というものではないということです。
売却を始めた頃の私は、「数か月もあれば買い手が見つかるだろう」と考えていました。
しかし実際には、新居が完成して引っ越した後も実家は売れず、少しずつ価格を見直しながら買い手を待つことになりました。
今振り返ると、実家の売却を通して学んだことがいくつもあります。
家はすぐ売れるとは限らない
立地や価格、築年数、その時の不動産市場など、さまざまな条件が重なって初めて売却につながります。
「そのうち売れるだろう」と考えていましたが、現実はそう甘くありませんでした。
売れるまでには想像以上に時間がかかることもあります。
値下げのタイミングは大切
価格を下げる決断は、とても勇気がいりました。
「もう少し待てば、この価格で売れるかもしれない。」
そんな気持ちもありましたが、売れない期間が長くなるほど固定資産税や維持費もかかります。
もちろん、やみくもに値下げをすればいいというわけではありません。
市場の反応を見ながら、不動産会社と相談して判断することが大切だと感じました。
空き家の維持費は想像以上だった
誰も住んでいない家でも、お金も手間もかかります。
固定資産税はもちろん、庭の手入れや建物の換気、郵便物の確認など、定期的に実家へ足を運ぶ必要がありました。
空き家だから何もしなくていい、というわけではないことを身をもって知りました。
思わぬ条件が付くこともある
ようやく購入希望者が現れて安心したのも束の間、裏庭のお稲荷さんの祠を撤去してほしいという希望がありました。
売却では、価格だけでなく、思いがけない条件が付くこともあります。
その一つひとつに柔軟に対応することも、無事に契約へ進むためには必要なのだと感じました。
不動産会社との相談は本当に大切
今回の売却では、不動産会社の担当者と何度も相談を重ねました。
売り出し価格を決めるときも、値下げのタイミングを考えるときも、購入希望者との条件を調整するときも、一人では判断できなかったと思います。
不安なことや疑問に思ったことは、その都度相談できたことで安心して売却を進めることができました。
実家を売ることは、単に不動産を手放すことではありませんでした。
そこには思い出があり、家族の歴史があり、一つひとつの決断に迷いもありました。
それでも、実家を手放したことで、私たち三姉妹はようやく新しい生活へ気持ちを切り替えることができました。
もし今、実家の売却を考えている方がいるなら、「思ったより時間がかかるかもしれない」ということを頭の片隅に置きながら、焦らず、一つひとつ進めてほしいと思います。
振り返れば、実家を売るまでの時間も、私たちにとって新しい人生へ踏み出すために必要な時間だったのかもしれません。
まとめ|本当の意味で新しい生活が始まりました
実家を手放すと決めたときは、やはり寂しい気持ちがありました。
母との思い出が詰まった家であり、私たち家族にとって大切な場所だったからです。
でも、実家を購入してくださったご夫婦が庭を気に入り、「ここで新しい暮らしを始めたい」と思ってくださったと聞いたとき、その寂しさは少しずつ安心へと変わっていきました。
母が大切に育て、妹が受け継いで手入れを続けてきた庭が、これからも誰かに愛されていく。
そう思えたことで、「この家はまた新しい役目を果たしていくんだ」と前向きな気持ちになれたのです。
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